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zoom RSS 『籠の中の乙女』 ヨルゴス・ランティモス監督 その1

<<   作成日時 : 2010/12/26 17:47   >>

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早いもので2010年も終わりですが、年内になんとかもう一作品更新できました(・∀・; 今回は2009年のカンヌ映画祭「ある視点」部門で最高賞に輝いた、ギリシャ映画『Dogtooth』(邦題『籠の中の乙女』)を紹介します。はっきり言って、いい作品です。

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『Dogtooth』(2009)
原題『Κυνόδοντας(Kynodontas)』
邦題『籠の中の乙女』 

監督/脚本 ヨルゴス・ランティモス
出演 クリストス・ステルギオグル…父

製作 ギリシャ
受賞歴 2009年カンヌ国際映画祭 「ある視点」部門賞(作品賞)

◎あらすじ
 お父さんしか家から出てはいけない――外には悪魔がいるから。両親によってそう教え込まれ、壁で囲まれた家の敷地から一歩も出ることなく育った一人の息子と二人の姉妹。しかし、長男が性的な欲望を持ち始める年になり、それを満たすために父親がクリスティーナという女性を連れてきたことから、この「無垢な」家族に変化が起きていく。

◎感想

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 カセットテープ「今日も新しい単語を覚えましょう。「海」とは革張りのアームチェアのこと。「高速道路」とは強い風のことです。「遠足」とは床などに使われる固い材質のことをいいます。例文:シャンデリアが落ちてきたが、「遠足」で出来ていたので床は無傷だった。」

 いきなりなんだと思われるかもしれませんが、これが本作のオープニング。この意味、分かりますでしょうか?単語に注目すると、すべて「家の外」が関係するものですよね…そう、これがこの一家の「教育」なんです(´∀`;つまり 両親は自分たちでカセットを作り、とにかく家の外にあるものをはじめ、不都合なものについての知識を与えないようにしている。子供たちを家から出さず、外にある汚らわしいものから守ってあげよう――今回は、このオープニングに象徴される、過保護すぎる家族を描いたオリジナリティある作品『籠の中の乙女』の感想を。

 本作は、私的には非常に好きと言うか、作品のスタイルが管理人の趣味にマッチした作品でした(・∀・ まず興味を引くのは、このあらすじの設定だと思います。両親はとにかく広い庭のある家から子供たちを外に出さず、外についての知識も与えずに育てようとしているという温室育ちもびっくりの設定。これだけ聞くと現実離れした話にも思えるのですが、この設定を出発点として据えたあとは、作品は非常にリアリティを持って進行していきます。これがとても成功していて、もし本当にこういう計画を現実にしている夫婦がいたとしたら、こんな風にするんだろうなと思わせられるほどでした。
 一例として、人間は食べ物がないと生きていけないですよね。外に出れるのは父親だけという決まりがあるので、父親が買い出しをするわけですが、製品についているラベルを帰り道でちゃんと剥がしておくという場面があります。こういうところを1シーン入れておくだけで、現実味が増すと思いました。

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 リアリティある作品のスタイルという点に関して言えば、オープニングから感じ、途中まできてやっぱりそうかなと思ったのは、作品の雰囲気が初期のハネケっぽいということです。言葉では説明しにくいのですが、あのなんともいえない淡々としていて不穏な雰囲気、自分は大好きです。もちろん、○○っぽいというのはランティモス監督に失礼かもしれないですが…。むしろランティモス監督のオリジナリティとしては、脚本が挙げられるでしょうか。作品の設定自体も面白いものですが、そこから次々と奇妙かつシニカルなシチュエーションを生み出してきます。たとえば、冒頭に挙げた言葉の意味を都合のいいように教えることや、子供たちが退屈しのぎにする意味の分からない競争など、スクリーン・ショットだけ引っ張ってくると引かれそうなシーンがたくさん(・∀・;笑 ストーリー・テラーとしての能力のある監督だなと思いました。

 ストーリーの流れとしては、こうしてずっと家から出ることのなかった子供たちが、クリスティーナという「外側の世界」に住む人間と出会うことで、それまで両親が教えてくれなかった、禁じていたようなことに触れ、少しずつ変化していきます。とくに、父親に甘やかされている長男よりも、好奇心の強い姉妹の方にその変化は顕著。外にあるものや、珍しいものへの興味だけでなく、変化の中には性的なことへの関心も含まれています。もちろん両親は、性に関することがらを汚らわしいものとして絶対に教えようとはしていなかったのですが(とある単語は「大きな蛍光灯」と説明されます:笑)、これは個人的にはリアルだと思いました。ちなみに本作はR18作品で、結構あからさまなシーンがあるので、苦手な人は注意です。そして、タイトル(原題)にもなっている『Dogtooth』=『犬歯』。これが何を意味して、ストーリーがどうなっていくのかは観て確認してください(´∀` 

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 ところで、この奇抜な設定、そしてそこから起きる本作の物語が一体なにを表現しようとしているのか、テーマは一体なんなのかということは作品中で具体的に語られてはいません。ネット上にころがっているインタビューを読むと、監督自身この作品の主題といったものを語ろうとせず、観客にそれぞれ自由に考えて欲しいと思っているようです。海外のレビューを見ると、父権についてとか、家族についてとか、人間の欲望についてだとか、そんな単語が目につくのですが、個人的にはあまりしっくりこない(・∀・;

 ある特異な状態に置いたあとはリアルに人間を追っているという点から、日常はなかなか現れてこない人間の性質を明るみに出そうとしているのかなと管理人は感じたのですが…。登場する子供たちは、外の世界についての知識がないので、いわゆる「世間知らず」を何倍にもしたような感じです。その点で、社会の中で生きる普通の人間よりも、人間の本能的な部分が強調されて見えてくるような気がしました。ただし、社会から切り離された人間というのは、それはそれで非本来的なのかもしれません。子供たちはやはり自由を欲しているように見えました。

 そして最後に、テーマを語る上でも重要になってくる素晴らしいラスト。これは、やられました。正直、ニヤっとしてしまいしたが、監督ウマイですね(´∀`* ラストについてが一番書きたいことがあるのですが、そこは自重。

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 とにかくこのラストシーンやテーマについて、鑑賞後に他の人と話したくなるような作品です。イギリス・アメリカをはじめ各国でDVDが出ていてamazonで簡単に購入できるので、よろしければ一度ご鑑賞を。余計なお世話かもしれませんが、最近紹介したジェイラン監督作や『Katalin Varga』はセリフが少なく、また本作はセリフがそれほど複雑ではないので、英語字幕に抵抗がある方でも理解に支障なく鑑賞できるのではないでしょうか。
※追記:本作が2012年に日本でも公開されるそうです!

本作の監督インタビューを和訳した「その2」はこちら!
http://planeta-cinema.at.webry.info/201012/article_3.html

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内 容 ニックネーム/日時
先日「白いリボン」を観て感動し、「Dogtooth」の存在を知りました。そして、ネット検索するうち、偶然このブログに辿り着き、作品に対する洞察の深さに「その通りだ」と思わず膝を打ちました。トラックバックさせて頂きました。どうぞ宜しくお願いします。
SAI-UN
2011/02/25 00:55
TB&コメントありがとうございます。
SAI-UNさんの記事を拝見しましたが、『白いリボン』から「青少年育成条例」を連想したというお話はユニークで、ぜひ詳しい感想を読んでみたいと思いました。
更新の遅いブログですが、また目を通していただければ嬉しいです。こちらこそよろしくお願いします。
ina
2011/02/25 01:15

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