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zoom RSS 『頭のない女』 ルクレシア・マルテル監督 その1

<<   作成日時 : 2011/07/30 19:46   >>

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前回紹介したルクレシア・マルテル監督の近作『頭のない女』を紹介します。この作品も前作同様カンヌのコンペ部門に選ばれた作品です(´∀` やや難解とも感じられる作風ですが、見て、じっくり考える価値のある作品ではないでしょうか。

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『La mujer sin cabeza』(2008)
映画祭上映題『頭のない女』/英題『The Headless Woman』

監督 ルクレシア・マルテル
出演 マリア・オネット…ベロニカ
製作 アルゼンチン
受賞歴 2008年カンヌ国際映画祭コンペディション部門出品

◎あらすじ
歯科医として裕福な暮らしを送っていたベロニカは、車の運転中に何かを轢いてしまう。その“何か”を確認することなくその場を逃げ出した彼女は、次第に自分は人間を轢き殺してしまったのだと思いこむようになる……疑念に押し潰されていくベロニカの姿をカメラはただただ追っていく。

◎感想
 というわけで、前回に続いてルクレシア・マルテル監督作品を取り上げます。カンヌのコンペに出品され、賛否両論の評価を受けたという『頭のない女』です(・∀・ これから書くようにいい部分・悪い部分のある映画だと思いましたが、一見の価値はあると思う作品でした。

 本作はマルテル監督の前作『ラ・ニーニャ・サンタ』よりも、さらにミニマリズムの方向性を徹底して進んでいきます。「自分は人を殺してしまった」と思い込み、精神的に不安定になっていくベロニカをカメラはひたすら追っていきます。BGMなど当然のようになく、観客は乾いた映像によって映し出されるベロニカと疑念を共有することになります。

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 さて、いま疑念を共有すると書きました。しかし実は、開始数分でベロニカが何かを轢いてしまったとき、観客は彼女が何を轢いたのか目にするんですね。↓の画像参照。

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 どうでしょうか、小さいですが犬に見えますよね(ちなみに映画は、子供たちと犬が遊んでいる風景から始まります)。しかし、ここからがマルテル監督の真骨頂。私たちはここで「なんだ、彼女が轢いたのは犬じゃないか」と思うのですが、数十分後には混乱のまっただ中にいることになります。

 どういうことかと言えば、映画はその後、「自分が轢いたのは人間だ」と強く信じ込んでいくベロニカをひたすらに映します。面白く、かつ怖いと思うのですが、一度思い込んでしまうと、その疑念というのは振り払うことができません。次第にベロニカには、日常の出来事さえもが、自分は人を轢き殺したのだと確信させるものに思えてきます。この、ベロニカが疑念にもがくあたりの描写はとても重苦しく、静か。そして、ベロニカは完全に「自分は人間を殺してしまった」という結論に至ったというように見えてきます。

 ここまできて私たちは、数十分前にちらっと車のバックガラスから見た「犬」が、本当に犬だったのか思い出せなくなります。ベロニカがこれほどまでに轢いたのは人間だと確信しているのに対して、自分が見たのは犬だと確信をもって言えるだろうか。数十分前に見た映像はもはやあいまいで、そもそもあれは「犬のようなもの」だっただけで、犬ではなかったかもしれない、と思うようになります。そうして観客は、「轢いたのは何だったのか」という疑念を実感を持ってベロニカと共有するようになるのです。これは本当に上手いと思いました(・∀・

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 ただし、本作にとって「ベロニカが轢いたのは何だったのか」という問いへの答えは重要ではありません。むしろ、ベロニカが疑いから思い込みに至ること、そして観客もまた彼女と同じ疑念を抱くようになることそれ自体が重要なのだと思いました。

 そしてそのことから管理人が感じた映画のテーマは「記憶」あるいは「記憶の改ざん」というものです。記憶というのは過去についてのものですから、もう一度いま体験することは当然できません。だから記憶とは本当にあいまいなもので、思い込みや願望によって、事実とまったく違う記憶が、自分の中で正しい記憶として存在している可能性があります。これは実際によくあることだと思いますが、大抵は悪いこと、忘れたいことを都合のよい記憶に(無意識のうちに)改ざんするのが人間です。ここにマルテル監督の人間の弱さへのまなざしがあると感じました。

 このようなテーマに対するマルテル監督の一番はっきりした主張が現れるのがラスト。映画が中盤にさしかかる頃、ベロニカは耐えられなくなってついに事件について夫に告白します。ここから映画がラストへと展開していくのですが、あとは鑑賞してのお楽しみに(´∀` ラストはまさかこうくるとは思いませんでした…。

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 さて、上記のテーマ、あるいは観客までも疑念に引き込むという手腕が本作の素晴らしい点。その一方で今作にはちょっと不満も。それは、中盤あたりの退屈さ、あるいは短い映画にもかかわらずテンポの悪さを感じてしまった点です。
 ただ、『Cabina』さん、『★Movies that make me think★』さん(どちらもネタバレありですがとても参考になります)が、本作についての記事で書かれているように、アルゼンチンの社会状況についての描写も本作の重要な要素となっているようです。その要素に気付かなかったために、管理人は中盤を退屈に感じてしまったのかもしれません(・∀・;お恥ずかしい

 万人向けという映画ではないと思いますが、マルテル監督ならではの洞察に満ちた一作であることに疑いはありません。DVDはUK、USどちらもありますが、値段的にUK版がおすすめです。

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本作の監督インタビューを和訳した「その2」はこちら!
http://planeta-cinema.at.webry.info/201107/article_5.html

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頭のない女 <2008/アルゼンチン=西=仏> ★★★★★
La mujer sin cabeza/The Headless Woman 2008/87min/アルゼンチン=スペイン=フランス ドラマ、ミステリー 監督/脚本:ルクレシア・マルテル(Lucrecia Martel) 出演 : マリア・オネット、クラウディア... ...続きを見る
★Movies that make me...
2011/07/31 10:06

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