ぷらねた 〜未公開映画を観るブログ〜

アクセスカウンタ

zoom RSS 【短編】ジャファル・パナヒ監督の『アコーディオン』。

<<   作成日時 : 2012/01/22 22:30   >>

驚いた ブログ気持玉 2 / トラックバック 0 / コメント 3

ジャファル・パナヒ監督について小さな更新をしたいと書きました。有言実行、今回はパナヒ監督が2010年に発表した短編『The Accordion(アコーディオン)』について更新します。youtubeにある映画本編、セリフの和訳、そして蛇足な気もする管理人の感想をどうぞ。

画像


『The Accordion』(2010)
監督/脚本 ジャファル・パナヒ
製作 イタリア・ブラジル・フランス・スイス
受賞歴 2010年ヴェネチア国際映画祭 Lina Mangiacapre賞 スペシャル・メンション

○本作について
 本作『アコーディオン』は、『Then And Now: Beyond Borders And Differences』といういくつかの短編を収めた映画の一部として、パナヒ監督が監督した作品です。この短編集はARTというNGOによって企画され、「寛容」や「差異の尊重」がテーマにされているとのこと。ご存じのように、この作品と同年の2010年に監督は逮捕され、懲役6年と20年間の映画製作の禁止を言い渡されました。

○あらすじ&本編
 イランの路上で、小さな兄弟が楽器を演奏してお金を稼いでいる。しかし、ひょんなことから男と言い争いになり、二人はアコーディオンを奪われてしまう。

……とはいえ、あらすじを読むよりも実質7分くらいの短編なので観るのが一番でしょう!youtubeにあった作品本編を置いておきます。英語字幕つきですが、一応セリフを和訳してみました。セリフ訳のあとの感想も読んでいただければ嬉しいですm(_ _ )m




○セリフ日本語訳
 ウィンドウを二つ表示するなどして、youtubeを見ながらうまく利用してください。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

弟「モスクだ!」
兄「本当に悪かったって!ここがモスクだって気付かなかったんだ」
弟「おじさん、やめて」
男「モスクで楽器を鳴らすのは罪だ」
兄「本当に知らなかったんだ、悪かったって」
弟「お兄ちゃんを離して」
おじさん「もう許してやりなさい」
男「なんでそんなことを言う」
「ここはモスクだぞ、神の家なんだ」
 「こいつは神を冒涜してる」
 「警察につき出すべきだ」
弟「お願いだからお兄ちゃんを離して」
 「待って」
男「何なんだ」
弟「アコーディオンを返して」
弟「起きて」
−−−−−−−−
兄「ハディジェ、こっちだ」
弟「お兄ちゃん」
 「何持ってるの?」
 「石を捨てて」
 「捨ててよ」
 「何する気なの?」
 「ねぇ、石なんて持って何するつもり?」
 「お願いだからおじさんに何もしないで」
 「お兄ちゃんが捕まっちゃったら、誰がお母さんの世話をするんだよ?」
 「頼むよ、何もしないで」
 「見たんだ」
 「あのおじさんは僕らより貧乏なんだよ」
兄「静かに」
 「俺たちのアコーディオンの音だ」
 「絶対にそうだ」

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

○感想
 短編とはいえ、本当に素晴らしい作品だと思います。作品に宿るこの温かさ・優しさが、パナヒ監督を表現しているかのようです。短編集自体のテーマと同様に、本作の主題も「寛容」であると言えるでしょう。

 モスクでの演奏に対して厳しく叱責する男性は「不寛容」を表現していると言えますが、この映画のように「不寛容」は宗教において強く表面化することがあります。それから宗教だけでなく、人種や性別、政治観、貧富の差などの様々な「違い」から「不寛容」は生じてくるのでしょう。そして「不寛容」の結果として起きる対立は怒りや憎しみを引き起こし、この作品の兄のようにやがて武器を取り、争いに至ります。

 とはいえ、パナヒ監督は人間を単なる「不寛容」な生き物として見ているわけではありません。監督は本作の中で、兄に石を捨てさせ、あるいは男性にアコーディオンを持たせ、最終的には三人に一つの音楽を奏でさせています。このラストシーンで描かれているのは、人間には「不寛容」を乗り越えることができるという監督の確信なのか、それとも祈るような希望なのか――

 いずれにしても、差異を尊重せず、違いのある相手を排除しようとするかぎり、人間の未来が暗いものになるのは分かりきっています(過去を見れば嫌というほどに明らか)。私見ですが、そうした考え方や行為をするかぎり、人間はもっとも下等な動物であることになるでしょう。なぜかといえば、人間以外の動物は人間がするような「不寛容」をしないからです。私たち人間の存在がなんらかの価値や意味を持つとすれば、それは人間のどのような側面、可能性にあるのか。本作を見て、あらためてこんなことを考えさせられました。

 最後になりますが、この作品はイランの現状を描いた作品としても観れると思います。宗教的な理由で兄弟に対して怒りを爆発させる男は、イラン政府と重なります。そして彼がアコーディオンを奪い去る姿は、パナヒ監督をはじめとした映画監督たちから映画を奪ったイラン政府そのもの。もしこのように本作を観てもよいならば、映画のラストのように、イラン政府が自国の映画監督たちを認め、互いに映画を楽しめるようになって欲しいと願わずにはいられません。

 どれほど理由をつけようと、映画を作っただけで逮捕され、刑務所に入れられるなんてことが正当化されるはずがない。子供でもおかしいと分かります。イラン政府による映画監督の弾圧は、宗教的な問題でも政治的な問題でもなく、まさに「不寛容」の問題なのではないでしょうか。こうした意味でも、本作『アコーディオン』は、2011年の『これは映画ではない』とあわせて、たくさんの人に観てもらうべき映画だと思います。

画像


セリフの誤訳などを発見されましたら、コメント欄・メールにてご指摘くださいm(_ _ )m

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
驚いた
ナイス

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(3件)

内 容 ニックネーム/日時
素晴らしい映画を紹介していただいて、しかも翻訳までしていただいてありがとうございます。
ジャファル・パナヒ監督作品では、「白い風船」「オフサイド・ガールズ」「チャドルと生きる」を観たことがあり、特に「白い風船」のラストは衝撃的な感銘を受けました。
「クリムゾン・ゴールド」が観たくてずっと待っているんですが、DVD化も難しそうですね……
キアロスタミやマフマルバフ、バフマン・ゴバディなど数えられないほどの天才、名作を生みだしているイラン映画を(個人的にはドストエフスキーあたりの時代のロシア文学に匹敵する宝庫と思っています)、イラン政府自体が、抑圧や禁止をするのは馬鹿げています。
ぷらねた様のおっしゃるとおり、イラン政府が自国の映画監督たちを認め、互いに映画を楽しめるようになって欲しいと願っています。
アマー
2012/02/10 18:05
コメントありがとうございます!
「白い風船」のラスト、印象に残りますよね。一瞬呆然とし、そのあとで頭を叩かれたような思いがしたのを覚えています。
「クリムゾン・ゴールド」ですが、DVD化すらされていないのは本当におかしいと思います。海外版DVDならamazon.ukに安くありますが……。

後半の内容については本当におっしゃる通りだと思います。パナヒ監督がいまどうなっているかも気になりますし、少しでもいニュースを聞きたいですね。
またパナヒ監督に関する更新をしたいと思っているので(いつになるか分かりませんが)、気が向かれたときに覗いてやってください。
ina
2012/02/11 02:24
ありがとうございます。
海外版DVDですか……日本語以外まったくわからないので、これは語学からはじめないといけませんね(;^_^ A
これからもブログ楽しみにしています。よろしくお願いいたします。
アマー
2012/02/11 14:49

コメントする help

ニックネーム
本 文
【短編】ジャファル・パナヒ監督の『アコーディオン』。 ぷらねた 〜未公開映画を観るブログ〜/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる