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zoom RSS 『Die Fremde/When We Leave』 フェオ・アラダグ監督 その1

<<   作成日時 : 2012/04/15 02:18   >>

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最近ドイツ映画があまり公開されていない気がしますが、いいドイツ映画はもちろんあります(・∀・ 今回紹介する『Die Fremde』(英題『When We Leave』)は、2010年のドイツ映画賞で作品賞(銅賞)と主演女優賞を獲得した作品。その主演女優とは『愛より強く』のシベル・ケキリ!

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『When We Leave』(2010)
原題『Die Fremde』
監督/脚本 Feo Aladag(フェオ・アラダグ)
出演 シベル・ケキリ…ウマイ
製作 ドイツ・トルコ
受賞歴 2010年ドイツ映画賞 作品賞(銅賞)・主演女優賞(シベル・ケキリ)

◎あらすじ
 ドイツ生まれのトルコ系女性ウマイは、結婚してトルコで暮らしていた。しかし、暴力的な夫に悩まされた彼女は、息子を連れてベルリンの実家に逃げ帰ってきてしまう。ウマイに夫とやり直す気がないことを知った家族は、一家の名誉を汚されたと感じ、なんとか彼女をトルコに帰らせようとするが……。

◎感想
 2010年のドイツ映画祭ほか、ベルリンなどでも受賞を重ねた『Die Fremde』を今回は紹介したいと思います。『愛より強く』に続いてシベル・ケキリが二度目のドイツ映画賞主演女優賞を獲得したということで気になっていた作品だったのですが、社会問題を扱いながら映画としても感動的な素晴らしい作品でした。

 ドイツで暮らすトルコ人一家の家に生まれた主人公のウマイ。トルコのイスタンブールに嫁ぎ、いまは夫の家族と暮らしているのですが、その結婚生活は幸福なものではありませんでした。暴力を振るう夫に耐えられず、息子のジェム君を連れてベルリンの実家に戻ってくるところから映画は始まります。

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 さて、DVから逃げてきた娘を家族はどう迎えるか?日本人なら「可哀そうに」「離婚だ!離婚!」という感じになるのでしょうが、イスラム教の価値観を持ったウマイの家族たちはまったく違う反応をします。ウマイが夫のもとに戻るつもりがないと知った彼らは、なんと彼女の行為によって一家の名誉が汚されたと感じ、トルコに帰るよう促すのでした。

 とはいえ、ウマイだって戻れません。子供を夫に返せと言われたって、返したくない。こうしたウマイに対して家族は段々と苛立ちを隠さなくなります。とくに長男は普通に実力行使(・∀・; 家族を頼ってドイツに戻ってきたのに、その家族によって無理矢理にトルコへ連れ戻させられそうになり、ウマイの苦悩は募るばかり。

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 このあたりで本作のテーマはもう明らかでしょう。本作は、「名誉」を重んじる社会の価値観ゆえに女性に対して引き起こされている問題に正面からぶつかった作品です。映画を観てすぐに感じる男尊女卑の傾向に加え、暴力旦那から逃げることも許されない。そして何よりも、後述する女性に対する大問題があります。

 この「名誉」については、印象的かつ象徴的な場面がありました。ウマイの妹は婚約していたのですが、ウマイが夫のもとから逃げて帰ってきたというニュースがトルコ系のコミュニティに流れ、婚約を解消されてしまうという場面です。別に妹は何もしていないのだけれども、ウマイ一人の行動によって一家全体が「不名誉な一家」とみなされてしまう。日本で暮らす私たちにとっては「いつの話だよ」と思ってしまうような話ですが、現代で本当に起きている話なのだから恐ろしい。

 家族に頼れなくなったウマイは、警察を呼び、施設で保護してもうらことにします。友人の助けを得て、息子と二人で生活していこうとするウマイでしたが、「名誉」を重んじる家族たちが彼女を放っておくわけもなく……。

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 あらすじはこのくらいにしておきましょう。ところで、「ハトゥン・ジュリュキュ(Hatun Sürücü)事件」という事件を聞いたことがあるでしょうか(管理人はもちろんありませんでしたが)。「その2」のインタビューで話題にのぼっている事件ですが、次のような事件だそうです。

ハトゥン・ジュリュキュ事件とは、2005年にトルコ系女性のハトゥン・ジュリュキュがベルリンで射殺された事件。犯人は彼女の実の弟であり、動機は「名誉の殺人」だった。ドイツ生まれの彼女は、16歳のときにトルコに住むいとこと強制的に結婚させられたが、離婚して息子を連れてドイツに戻ってきていた。彼女はドイツ人の男性と交際していたとも報じられている。施設に逃れた彼女は学校に通い、電気技師の訓練を終えたばかりだった。享年23歳。(英語版wikiの記事

 この事件が本作のプロットに影響を与えているのは明らかだと思いますが、とにかく本作のテーマ、本作が伝えようとしている問題はこれでもう分かるでしょう。女性のある種の行動を一家の「不名誉」と捉える価値観から、女性に対して振るわれる暴力、その果ての殺人。これがいま現実に世界で起きている問題であり、監督が訴えようとしているものです。

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 トルコからの移民、とくにドイツで生まれたトルコ系の人々は、ヨーロッパ的な思考と伝統との間で揺れ動くことになります。もしウマイがドイツ生まれでなければ、そもそも夫がどんなに暴力的でも逃げ出そうとはしなかったかもしれません。そういう意味では、この問題はきわめて現代的な問題と言えます。しかし他方で、こうした問題が私たちの目に見える問題として報道されるようになったのが最近の話というだけで、はるか昔から厳しい状況に置かれた女性たちがいたことも容易に想像できます。

 そして監督は明らかに、本作で描かれるような伝統的な価値観における女性への態度・振舞いを批判しています。つまり、伝統・文化にも批判されるべきものがあると監督は考えているのでしょう。実は管理人もこうした問題については同意見。「伝統的文化・価値観だから」という理由で何もかもを正当化することはできないと思います。
 「名誉の殺人」などの問題は、たとえそれが「文化・伝統」として長年にわたって保持されてきたものであっても、否定されるべき行為でしょう。そして問われるべきなのは、それが本当に「名誉」の問題なのかどうかということ。「名誉」というものが本当にあるとしても、殺人によって回復する「名誉」などあるのでしょうか。伝統だからと思考停止せず、批判的に反省することが大切な場合があるはずです。とくにそれが、人間の命に関わる場合には。

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 ……と、語りなくなってしまうくらい、とても思うところのある考えさせられる作品でした。そしてそれだけでなく、映画としてもすごくよくできていたと思います。ラストシーンはとくに素晴らしい。フェオ・アラダグ監督は女優さんだそうで、本作が監督デビュー作なのですが、監督としての才能のある方だと感じました。いくらでも重たい映画にすることができる題材ですが、問題提起と娯楽性をちょうどいいバランスで作品に与えています。こういう作品を良質な作品と呼ぶのでしょう(・∀・

 最後にシベル・ケキリですが、素晴らしいの一言に尽きます。『愛より強く』ではちょっと特徴的なキャラクターを演じていましたが、今回は普通の女性を丁寧に演じていました。個人的にはこちらの方が好感度高し!

 原題の『Die Fremde』というのは、「外国人・よそもの(の女)」という意味。ドイツで生まれたウマイはトルコでの結婚生活もうまく行かず、ドイツでも家族と対立してしまう、まさに迎えてくれる人がいない、よそもの。作品を一言で表現する、とても悲しいタイトルだと思います(映画を観る前はなんでこんなタイトルなんだと思いましたが)。DVDは英語字幕を収録したドイツ版が発売されています。日本でも上映される機会がありそうな作品なのですが……どうでしょうか。

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本作の監督インタビューを和訳した「その2」はこちら!
http://planeta-cinema.at.webry.info/201204/article_3.html

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
>伝統だからと思考停止せず、批判的に反省することが大切な場合があるはずです

興味深い作品ですね。そしてこの言葉には大いに同感です。
記事は今日読んだのですが、たまたま当ブログでもFGMについて扱った作品のレビューをアップしたばかりなんですが、FGMも名誉の殺人も伝統だからと片付けてしまうのは違うと思います。
どのような背景でこのようなことが行われるようになったのか(根底は、女性の支配だと容易に推測できますが)、命、人権に関わることは見直すことが必要だと思います。
みち
2012/04/19 13:23
コメントありがとうございます。

問題提起をしつつ可能性を問い、しかも娯楽的にも十分楽しめる本当にいい作品でした。ここ二年ほどドイツ映画祭が開催されていませんが、何かの機会に上映されるレベルの作品だと思います。
『デザート・フラワー』ですね、みちさんの記事を読むまで全然違う内容の作品だと思っていたのですが、興味が出てきました。観てみたいと思います。

まったく関係ない話ですが、さきほどカンヌのコンペ作品が発表されて興奮しています(笑
ina
2012/04/19 21:18

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