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zoom RSS 『眠れる美女』 マルコ・ベロッキオ監督 その1

<<   作成日時 : 2012/11/12 21:53   >>

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ちょっと予定が狂ったのですが、東京国際映画祭からもう一本いきましょう(・∀・ 今回は、マルコ・ベロッキオ監督の新作『眠れる美女』を取り上げます。2009年にイタリアで激しい議論を呼んだ実際の尊厳死の問題を背景に、この問題に直面する人々を描いた作品。やはり良いです。

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『Dormant Beauty』(2012)
原題『Bella Addormentata』
映画祭上映タイトル『眠れる美女』
監督/脚本 マルコ・ベロッキオ
出演 トニ・セルヴィッロ……ウリアーノ
   アルバ・ロルヴァケル……マリア
   イザベル・ユペール……母
   マヤ・サンサ……ロッサ
   ピエール・ジョルジョ・ベロッキオ……パリドー医師
製作 イタリア・フランス
受賞歴 20012年ヴェネチア国際映画祭 コンペティション部門出品

◎あらすじ
 2008年、イタリアで17年間植物状態にあった女性エルアナ・エングラロの延命措置の停止が裁判で認められる。しかし、この尊厳死を認める判決は激しい論争を巻き起こすことになった。
 2009年2月、エルアナは延命措置の停止を引き受けたウディネの病院へと搬送される。最期の時が近づくなか、またそれぞれに葛藤を抱える人々がいた――エルアナ事件を軸に、三組の人々を描く。

◎感想
 というわけで、今回はマルコ・ベロッキオ監督の新作『眠れる美女』について感想を書きたいと思います。本作は間違いなく日本でも公開されるはずなので取り上げるか迷ったのですが、素晴らしい作品だったのでまぁいいでしょうか(・∀・;

 さて、本作『眠れる美女』は、あらすじにも書いたエルアナ・エングラロさんの尊厳死が背景になっています。イタリアはなんといってもローマ法王のお膝元であり、カトリックは尊厳死(あるいは安楽死)に反対なわけですから、彼女の尊厳死を認める判決に対しては大変な反発も起こり、国内では政治・宗教を巻き込んだ国家的な論争になったそうです。
 ただし、本作には一度もエルアナは出てきません。『眠れる美女』が焦点をあてるのは、そのエルアナが延命措置の停止のために病院へと搬送されたころ、生と死について葛藤することになる一般の人々です。映画では、三組の人生の一部が、エルアナの状況とリンクして描かれていくことになります。具体的には以下の物語が語られることになります。

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(1)政治家と娘――思想的・政治的観点から
 尊厳死を認める判決に対して、ベルルスコーニ首相は延命措置の停止を阻止する法案を提出した。しかし、この法案に反対する政治家ウリアーノは、法案に賛成せよという党の方針と自らの信念との間でジレンマに陥る。彼には、尊厳死を認めるという信念を貫こうとさせる過去があったのだ。
 同じころ、ウリアーノの娘マリアは、エルアナの尊厳死に抗議する運動に参加するが……。

(2)元女優と息子――宗教的観点から
 伝説的な女優であった母。彼女は娘が植物状態になってからは女優を引退して、神に祈りながら看病を続ける。一方で、母を尊敬して俳優を志す息子は、植物状態の姉が母を束縛しているように感じているのだった。

(3)医者と女――人間的観点から
 パリドー医師の目の前で、薬物中毒の女が自殺を図る。その女性ロッサは、どうやら自殺未遂を繰り返してきたようだ。薬物中毒の患者を救おうとしても無駄だという同僚を無視して、パリドー医師は個室のなかで彼女が目覚めるのを待つ。

 エルアナという背景からして当然のことですが、本作のテーマは尊厳死に関わるものです。三つの物語にはそれぞれに「眠れる美女」が登場し、彼女たちをめぐって、尊厳死・安楽死の問題に焦点が当てられていきます。(1)では、エルアナの尊厳死の問題。それからウリアーノの過去。(2)では、姉の尊厳死の問題。母はもちろん認めませんが、息子はもう姉に死んでもらいたいと思っているわけです。(3)では、自殺の問題。自殺も意図的に命を絶つという点では、尊厳死・安楽死と同じだと考えられます。つまり、尊厳死を認める人間は、原理的には(いろんな例外ルールを設けるとしても)自殺も認めることになってしまう。

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 それでは、私たちは尊厳死を認めるべきなのかどうか――これが本作のテーマであり、監督が投げかけている問題です。医療が発達した現代において、これは現実にある問題であり、それゆえに答えを与えなくてはいけません。エルアナのように、長い間ただチューブにつながれて延命措置がなされているケースでは、心情的に「もう尊厳死を認めてあげようよ」という気にもなります。一方で、尊厳死を認めるということは、いま現に生きている命を人為的に消滅させること(これをひとは殺人と呼ぶ!)を認めるということになりますし、自殺を肯定することにもつながるでしょう。
 分かり切ったことですが、これは考えなくてはならない問題であると同時に、簡単には答えが出ない問題です。映画のなかでは、三つのシチュエーションが提示されているわけですが、どの人物もみな悩みます。

 そうして悩んだあとで、彼らは自らの選択をするわけですが、ここで三つのシチュエーションには違いがあるように思われます。それが、↑のエピソード紹介のタイトルのあとにつけた、選択についての観点・立場の違いです。(1)は(3)に近い気もするのですが、ウリアーノはそれまでの政治的信念・思想に依拠して、これらの問題に対する態度を決定します。(2)は、イザベル・ユペール演じる母を見れば分かる通り、きわめて宗教的です。そして(3)は、パリドー先生が自殺を図ったロッサに対して「人間愛から助けた」と言うように、人間的な観点から描かれています(「人間愛」という言葉は、どうも言葉にすると安っぽいので以下では使いません:笑)。

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 そして大切なことは、作中ではどの観点・立場がよいのかという判断が与えられていないということです。ベロッキオ監督は、単にいくつかの見方を提示しただけで、最終的な判断を観客に委ねています。これは、映画の解釈を観客に委ねているということではなくて、スクリーンの外にある現実についての判断を観客に委ねているということだと思います。それは裏返せば、観客も能動的に考えるよう要求されているということにもなるでしょう。
 立場の異なる登場人物が公平に描かれる映画は、視点を相対化した偏りのない作品として褒められることがあります。もちろん『眠れる美女』における三つのエピソードにもそういう役割があるとは思うのですが、しかしそのうえでやはり一つの立場を選ぶように求められている気がします。というのも、尊厳死の問題には認めるか認めないかの二つに一つしかないからです。

 ところで、このように書いたわりには、なんだかんだでベロッキオ監督は(3)の立場なんじゃないかなと思います。(3)のエピソードの終盤はとても穏やかで、カメラの視線がそのままベロッキオ監督のあたたかなまなざしのように感じられました。そこには、監督の確信があったはずです。同じように感じられた方も多いと思うのですが、監督は政治思想やら信条やら宗教でなく「人間として」というところに答えを見出そうとしていると自分は理解しました。
 もちろん、この「人間として」というのは、答えになっているようで、なっていないかもしれません。いいことを言っている気がするだけで、抽象的な気もします。しかし、管理人自身もやはり(3)の人間的な立場に賛成しています。そう言いたくなるのは、映画を最後まで観て、ロッサがどうなったのかを思い起こせば共感してもらえるのではないでしょうか。

 ちょっとこれ以上はネタバレに踏み込みたくなるので、テーマへの感想としては中途半端ですが、この辺にしておきましょう。いずれにしても、尊厳死について、人間はどこまで命について決定権を持つのかということについて、考えさせられました。

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 それから、本作について絶対に触れておきたかったのはキャスト陣の豪華さです。なんですか、これは(・∀・ まず政治家ウリアーノを演じたトニ・セルヴィッロ。やはりの存在感とうまさ。今回は特徴のあるキャラクターではないものの、悩める政治家・父親を表現していました。それから、彼の娘役のアルバ・ロルヴァケルは、最近のイタリア映画では頻繁に目にする女優さんですね。相変わらずの透明感。そして、元女優の母を演じるイザベル・ユペール。一ファンとしては、キャリア上での突出した演技というわけではないですが、元(伝説的)女優という設定も納得のオーラでした。これだけのキャストを呼べるのもさすがベロッキオ監督。

 とはいえ、個人的に本作で一番良かったと思うのは、パリドー医師&ロッサを演じたピエール・ジョルジョ・ベロッキオ&マヤ・サンサ。個室の中での二人だけのやりとりは素晴らしかったです。ベロッキオさんの方は、映画祭でのQ&Aも良かったですね。ただ申し訳ないけれども、個人的にはマヤ・サンサ、彼女が最高でした。

 本作を観た直後にはもっと感想があったはずなのですが、時間が経っていろいろと忘れてしまいました(汗)。とはいえ、素晴らしい作品だったのは間違いありません。普通に考えれば日本でも公開されると思います(個人的には前作『Sorelle Mai』を観る機会がない方が気がかりです)。やはりベロッキオ作品、いいですね。

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本作の監督インタビューを和訳した「その2」はこちら!
http://planeta-cinema.at.webry.info/201211/article_2.html

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