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zoom RSS 『Japon/ハポン』 カルロス・レイガダス監督 その1

<<   作成日時 : 2012/05/20 14:56   >>

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カンヌ映画祭が始まりましたが、コンペには管理人が大好きなカルロス・レイガダス監督の新作が選出されています(・∀・ 前作までのDVDを最近購入したので、カンヌにあわせて計画していたレイガダス特集を組んじゃいます。まずは長編デビュー作にしてものすごい作品『ハポン』から!

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『Japón』(2002)
映画祭上映タイトル『ハポン』
監督/脚本 カルロス・レイガダス
製作 メキシコ・ドイツ・オランダ・スペイン
受賞歴 2002年カンヌ国際映画祭 カメラドール(スペシャル・メンション)

◎あらすじ
 ある男が、自殺を決意して都会から田舎の峡谷へと赴く。そこで彼は、アセンという老女が暮らす家に身を寄せることになる。信仰に篤いアセンと触れ合ううちに、男のうちには様々な生への衝動がよみがえっていく。

◎感想
 カルロス・レイガダス監督の作品を初めて観たのは、特集が組まれた2009年の東京国際映画祭でした。そこで一気に長編三本を観て、管理人はすっかり大ファンになってしまいました(ティーチインもすごく良かったのが決め手)。つい先日また観たくなってDVD全作を衝動買いしたところに、新作『Post Tenebras Lux』がカンヌのコンペ入りのニュースが!というわけで、カンヌにあわせて「ぷらねた的レイガダス週間」を勝手にしてみたいと思います(・∀・

 さて、本作はレイガダス監督の長編デビュー作。監督の作風をご存じの方もいるかもしれませんが、とにかく有無を言わさぬ映像の力に圧倒される作品になっています。デビュー作でこうした映画を撮ってしまうというのは、本当に驚くばかりでした。

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 物語は、主人公の名もなき「男」が自殺願望を抱いて都会から車を走らせ、死に場所を求めて田舎の峡谷を訪れるところから始まります。彼がどうして自殺を決意したのか、具体的なことは知らされませんが、どうやら都会でいろいろとあったようです。そうして都会から小さな山村に辿り着き、泊まるところを尋ねた彼は、アセンという老女の家なら余裕があるだろうと言われ、山の上にある彼女の家に向かうことに。

 アセンは小さな家でひとり質素に暮らす老女。彼女から快く宿泊の許可をもらった「男」は、彼女の家に泊まりつつ、山村を散策してみたりします。彼は自分が自殺する場所を探していたのかもしれません。しかし、アセンの家で厄介になりながら、強い信仰心を持つ彼女と交流していくうちに、少しずつ「男」のうちに失われていた感覚がよみがえってきます。

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 その感覚とは、性的な欲望、性的な衝動です。そしてそれは、自殺という死への衝動とは真逆の生への衝動に他なりません。こうして彼は、当初の目的であった自殺とは反対に、生きるという方向に強くうながされていくことになります。ある日、自殺をするために用意した拳銃を持って「男」は山に登っていくのですが……彼がどうするのか、ここが前半のハイライトになるのですが、ここからは実際に観てのお楽しみにしておきましょう。

 後半もすごいのですが、ここからは本作全体について書いてみたいと思います。

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 本作でまず印象的なのは、いくつかの性描写でしょう。とくに衝撃的な?シーンもあり、賛否両論かもしれません(でも次作『バトル・イン・ヘブン』に比べたらソフト)。とはいえ、「男」の中に消えかけていた性的な欲望がよみがえるという展開が本作の重要な要素であることは間違いないはずです。それでは、この性描写の意味は何なのでしょうか。

 それはやはり、「男」が性的欲望を取り戻す様子を描くことによって、生きることへの衝動も取り戻したということを意味しているのだと思います。自殺しようとしていた頃の「男」には、性的な欲求はもちろん、食欲も、なんの欲求もありません。死ぬのであれば叶える必要がある欲望などないからです。欲望というものが「もっと気持よく生きたい!」という衝動であるとすれば、欲望が生じるためには、生に執着していなければならないでしょう。それゆえ、性の欲望は生の欲望であり、本作は生への意志を取り戻す人間を描いた作品だと言えるのではないでしょうか。

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 でも、性欲以外の欲望によっても、「男」が生への執着を持ち始めたことを描くこともできたのではないかと思われるかもしれません。どうして『ハポン』で強調される欲望は、性的欲望なのでしょうか。
 次作以降も視野に入れて考えると、レイガダス監督は性的欲望を人間の生の欲望の中でもきわめて本質的・根源的なものとして捉えているように感じます。それはもう、生きている限り人間は性欲に駆られているんだと言わんばかりです。こうした性欲の根源性は監督が映し出す性描写にも表れています。すなわち、レイガダス監督の撮るセックスシ−ン等々は、恋愛映画で描かれるような素敵なものではなく、とても生々しく、そして日常的です。

 一見センセーショナルに感じられるかもしれませんが、生きる意欲を持つ人間が性的な欲望を持つのはきわめて「普通のこと」、「当然のこと」です。だから『ハポン』では性欲が肯定的に、生きる意志と結び付けられて考えられているのでしょう。過激な性描写はときに非難を呼ぶかもしれませんが、人間が日常的にしていることをありのままに示しているにすぎません。スクリーン上の「キャラクター」ではなく、現実に生きている「人間」に近づこうとするならば、こうした描写は必然的なものなのでしょう。こうした「現実の、生きている人間」への視線が、管理人がレイガダス作品を好きな理由の一つです。

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 それから今回見直して気がついたのは、音楽(BGM)が特徴的に使われていて、そのほとんどが宗教音楽的なものだったということ(観たのが3年前なので記憶から消えていました)。
 宗教的な要素について印象に残るのは、アセンが篤い信仰を持っているということ。彼女は家にある祭壇で祈りを捧げたり、イエスの肖像画にキスをします。その一方で「男」は、自分は祈ることはしないと言ったりします。都会でつらい目に会ったらしい信仰心のない「男」と自然の中で信仰心を持って暮らすアセンは対照的。むしろ、そんな「男」に生への衝動を取り戻させるアセンは、彼にとっては作中で何度か言及される聖母マリアのような存在なのかもしれません。『ハポン』におけるこうした宗教的要素も、本作で描かれる人間観において重要なものだと感じられます。

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 最後にレイガダス監督の作り出す映像について。ほぼ全編にわたって峡谷の中で撮影された本作ですが、まずは自然が美しい。荒々しくて、作りものではない自然があります。BGMがないときはずっと、その自然の中の音が聞こえてくるのもいい感じ。そして何よりもカメラワーク。何度かある、シネスコの横長の画面がゆっくりと横に移動していく印象的なシーンをはじめ、映像の構成が素晴らしく、圧巻のラストを含め、デビュー作にして非凡な実力を見せつけてくれています。

 第一作ということもあるのかもしれませんが、『ハポン』を初めて観たとき、とにかくスクリーンから熱いくらいの監督の気迫・情熱が伝わってきたことを覚えています。次回作以降もっとすごい作品を作ってくれるわけですが、『ハポン』の時点ですでにちょっとレベルが違うのは明らかです。DVDはUK・US版が発売されているので、興味のある方はぜひ。

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本作の監督インタビューを和訳した「その2」はこちら!
http://planeta-cinema.at.webry.info/201205/article_4.html

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