ぷらねた 〜未公開映画を観るブログ〜

アクセスカウンタ

zoom RSS 『闇のあとの光』 カルロス・レイガダス監督 その1

<<   作成日時 : 2012/10/27 22:27   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 0 / コメント 0

ついに、カルロス・レイガダス監督の新作『闇の後の光』を観ました。大好きな監督の新作、それもカンヌで監督賞ということで期待していましたが、期待など無関係、言葉では言い尽くせないほどに素晴らしい作品でした。本当に、心が奥底から揺さぶられました。ネタバレはしないように、主題についても考えてみます。

画像


『Post Tenebras Lux』(2012)
映画祭上映タイトル『闇の後の光』/日本公開題『闇のあとの光』
監督/脚本 カルロス・レイガダス
製作 メキシコ・ドイツ・オランダ・フランス
受賞歴 20012年カンヌ国際映画祭 監督賞

◎あらすじ
 メキシコの田舎で暮らす、フアンとナタリア。二人の子供に恵まれ、幸せな生活を送っていたが……。

◎感想
 今年もっとも楽しみにしていた作品、『闇の後の光』を鑑賞してきました。カンヌでの評判(ほとんどが悪い評判でしたが)を聞いてから期待ばかりが募っていましたが、その期待を軽々と超えて、またもレイガダス監督は比類なき映画体験をもたらしてくれました。
 海外での評価は総じて本作を「難解」と解しているようですが、自分は逆に素朴な主題が根底にあると思っています。レイガダス監督は観客ひとりひとりに解釈を要求していますから、そのあたりに対する管理人の考えも含めて、感想を書きます。まずは簡単にあらすじを……これがまた説明しにくいのですが。

 映画全体の調子を表現するかのように、本作のオープニングは、暗い空の下、草原で牛たちを追う少女を捉えます。この少女こそが、物語の中心となる一家の娘ルートゥ。このオープニングだけで「今回も傑作だ」と確信できるほどに示唆的で美しい映像なのですが、それが終わるとカメラは一家の家の中へ。
 この一家、つまり夫フアンと妻ナタリア、息子エレアサル、娘ルートゥの4人が本作のメインキャラクターとなります。映画はこの4人の人生、あるいは彼らと関わりのある数人の人々の人生の印象的な一場面を描いていくことによって進行していくことになります。ちなみにこの二人の子供は、レイガダス監督のお子さん。

画像


 序盤は、いわゆる一つのリニアなストーリーが展開するというよりも、細切れの場面場面が描かれていきます。それぞれの明確な意味は分かりませんが、やはりところどころに印象的なシーンがありました。個人的にいいなと感じたのは、一家の朝を描くシーン。子供たちがはしゃいで父親を起こし、家族4人がベッドの上で楽しそうしているところなどは、今までのレイガダス作品にはない明るさがありました。息子がオムツを勢いよく投げたりして、笑えます(・∀・
 ただ、同じく序盤では、犬を虐待しているシーンがあって、カンヌで拒絶された一因かもしれないと思いました。

 また、さすがにレイガダス監督だけあって、それらの場面が展開される時間は現在だけに限られていません。子供の成長具合でなんとなく判断がつくのですが、幼かったはずの子供たちがいきなり成長して出てくるシーンがいくつかありました。でも、次の場面では幼いまま出てきたり。ちょっと戸惑うかもしれませんが、本作の軸となるのは、四人の家族が田舎で暮らしていて、子供たちがまだまだ幼い時期ですから、そこを基準に観ればいいかなと思います。以下ではその時期を「現在」、それよりも子供たちが成長している時期を「未来」と呼ぶことにします。
 他にも、本作でおそらく唯一の性的なシーンがあるサウナの場面では、なぜかフランス語が使用されており、時間だけでなく空間も飛んでいるのかもしれません。サウナの性的なシーンについては、これまでにもレイガダス作品における性的なシーンについて書いてきたので、以前の記事を参照してください。あるいは「その2」のインタビューで監督自身が触れています。

 総じて前半の1時間は、場面ごとの意味を考えたり解釈するというよりも、その映像に引き込まれていました。このあたりで本作の映像について触れておくと、まずサイズは1.33:1の四角いスタンダードサイズ。そして何よりも強烈な印象を残すのが、↓の画像のように、中心に焦点が当てられて、周囲が円形状にぼやけている映像(屋外の映像はすべてこうです)。これに対してどのような印象を持つかは人それぞれでしょう。

画像


 管理人は、本作のなかでもっとも素敵な映像だと感じた海辺のシーンで、このエフェクトの良さを感じました。詳しく言えば、海辺に家族がやってきて浜辺で子供二人が遊んでいると、突然時間が未来になり、幼い二人の子供が大人になって立っている⇒波を映した後で、また幼い二人が海辺の岩の上を登っていく、というシーンです。とくに娘に焦点が当たるのですが、彼女が岩の上を登っていくときにこのエフェクトがかかっていることで、これはもしかしたら記憶や回想なのかもしれないと感じました。
 記憶や回想は、核心的な内容以外の部分については曖昧になります。友人や子供、あるいは恋人のことを思い出すとき、彼らの仕草や表情は鮮明に思い出せたとしても、彼らの背景にある景色は曖昧にしか思い出せないでしょう。レイガダス監督が採用したこのエフェクトからは、本作の屋外の映像が、そうした誰かの記憶、主観的なものを表現しているのかもしれないと思いました。そうすると、映画の中心となる「現在」が、実はすべて回想である可能性も出てくるかもしれません。こうやって色々と妄想できるあたり、本当にレイガダス作品はいいなぁ。

 とはいえ、こんな感じで、前半の1時間くらいは映像に浸りきりで、あまり本作のテーマというものがつかめませんでした。しかし、後半では一つの重要な出来事が起こり、物語の筋が現れたように感じます。それを受けて、後半の1時間で次第に自分なりの解釈が固まってきました。ここからは、本作が何を表現するものかということについて少し書きます。

画像


 結論から言えば、本作のテーマは『闇の後の光』というタイトルが示していると思います。本作の原題は『Post Tenebras Lux』というラテン語で、意味はやはり「闇の後の光」。このラテン語は決まり文句的なもので、スイスのジュネーブにある宗教改革記念碑というレリーフに刻まれていることで有名だそう。そして、さらにその出典(『旧約聖書』「ヨブ記」)までさかのぼると、「Post Tenebras Lux」という名詞ではなく「Post tenebras spero lucem」つまり「私は闇の後に光を願う」という文に行き着きます。ややこしくなりましたが、この願いこそが本作のテーマであると言いたいわけです。

 本作は、タイトルに「光」とあるにもかかわらず、最後まで明るい要素がないように一見すると思われます。とくに終盤のフアン、あるいはセブン(キャラクターです)のシークエンスはきわめて暗いものです。それらは、タイトルの「闇」に属すものでしょう。しかし、逆にそれらをはじめとした本作に出てくる暗い要素が「闇」ならば、そのあとに「光」が来るとタイトルは示しているはずです。しかし、「光」とは何か。

 ここで注目したいのは、監督が「未来」を、二人の子供が成長した姿によって描いていることです。そうであるならば、父フアンが経験する「闇」、あるいは「現在」の「闇」のあとで、子供たちが生きる「未来」に光が射すこと、「未来」が明るいものになることが、本作の「光」なのではないでしょうか。
 父フアンが出てくる最後のシーンで彼が語ったこと、あるいはこれまでの作品からは意外に感じてしまうくらいに作中で子供たちの無邪気さや朗らかさが描かれること――こうしたことを考えると、『闇の後の光』は宗教的なものでも難解なものでもなく、子供に対する素朴な親の愛情を表現しているような気がします。つまり、子供たちの未来が明るいものであるようにと願う親の愛情です。「私は闇の後に光を願う」というのは、レイガダス監督が、あるいはすべての親が(と言いたい)持つ願いとして自分は理解します。

 ここまで考えて、自分は『サクリファイス』のラストのタルコフスキーの言葉を思い出しました。それは「息子に捧げる――希望と確信をもって」というものです。
 そして、レイガダス監督も子供たちの「未来」に「光」が射すことを確信しています。そう言えるのは、上述した海辺のシーンで、成長した二人が立っているカット(つまり「未来」)の次にくるのが光の射し込む海のカットだからです。あの陽光のカットこそ、まさに「闇の後の光」なのではないでしょうか。

画像


 最後にもう一言、唐突に訪れるあのラストシーンも素晴らしかったです。あそこで終わると、余韻がいつまでも残ってしまいますね。本当の意味でのクライマックスはその直前だと思いますが、あのシーンからラストまでは本当に鳥肌モノです。そして、ラストシーンのセリフ群は、「闇の後の光」ということを上述のように考えるとよく理解できるような気がします。つまり、人生には光が射すから、相手が強くとも「よし、いこう」、と。

 もはや現役の映画監督では並ぶものがいない、圧倒的な独自の映像世界はもちろんですが、これまでにはない子供たちに対する優しいまなざしなど、とにかく二時間ずっと心が動かされていました。言及した箇所以外にも、ニール・ヤングの『It's a dream』のところも良かった。本当に美しく、素晴らしい作品だと思います。『静かな光』とどちらが好きかと言われると悩みますが、レイガダス監督の「最高」傑作とは言わないでおきましょう。これからもどんな映画を作ってくれるのか、楽しみです(・∀・


本作の監督インタビューを和訳した「その2」はこちら!
http://planeta-cinema.at.webry.info/201210/article_4.html

※短時間で書いた記事なので、こっそり修正する部分があるかもしれませんがご容赦を。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(0件)

タイトル (本文) ブログ名/日時

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(0件)

内 容 ニックネーム/日時

コメントする help

ニックネーム
本 文
『闇のあとの光』 カルロス・レイガダス監督 その1 ぷらねた 〜未公開映画を観るブログ〜/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる